糸島の海は、とても豊かな表情をもっている。龍の頭を思わせる糸島半島が玄界灘にせり出し、その地が果てたところから、大陸へと広がっていく海は群青色に染まる。糸島半島をはさんで東側は博多湾、西側は唐津湾が美しい湾曲を描き、各地に白砂青松が残る。月夜になると、月の光が波間に揺れる。枕草子の作者、清少納言曰(いわ)く。「夏は夜 月のころはさらなり」
1 箱島 恋愛助ける海に浮かぶ神社
「海に浮かぶ神社」と呼ばれる箱島。島の小さな丘を登っていくと、祠にたどりつく。恋愛を助ける神様、愛染明王(あいぜんみょうおう)がご祭神の一つで、参拝者にはカップルも多い。今では想像もつかないが、100年ほど前、島には料亭が立ち並んでいた。加布里湾に、さぞにぎやかなお座敷の唄が響き渡っていたであろう。
2 福ノ浦 海辺の先に脊振の稜線
糸島半島の西端にある福ノ浦。玄界灘と唐津湾という、外海と内海の海水が混じり合う場所だ。白い砂浜を散策したり、防波堤釣りを楽しんだりする人でにぎわい、竹を組んだ立体式の塩田がある製塩所も人気の観光スポット。湾の向こうには、脊振山地の山並みがたおやかに稜線を描く。
3 深江 自然と調和する漁村の営み
昔は唐津街道の宿場町としてにぎわった深江。その風情ある町並みを守っている防風林の松林が延々と続いている。その林を抜けると、遠浅の白浜の世界が広がる。東のほうに目をやると、遠くにのどかな漁村の明かり。人々の営みと自然の調和よってつくられた風景だ。
4 引津亭(とまり) 対外使節が汐(しお)待ちで停泊
糸島半島南西部にある引津湾。昔は対外使節の停泊地となっていた。万葉集には、汐待ちのために立ち寄った遣新羅使の歌七首が収められている。「草枕 旅を苦しみ 恋ひ居れば 可也の山辺に さ雄鹿鳴くも」。航海術が発達していなかった時代、さぞ、つらい旅であったろう。可也山の山影が慰めてくれているようでもある。
5 姉子の浜 キュッキュッと砂が鳴き
唐津湾に沿って国道202号を西へと向かってドライブすると、弓の形を描いた長い砂浜が見えてくる。エメラルド色の海が白い浜を引き立て、南国にいるかのような気分にさせてくれる。浜を歩くと、キュッキュッと高い音が響き渡る。鳴き砂でも知られる海岸だ。湾の彼方に見える可也山の山容はなだらかで包容力を感じさせる。
6 芥屋 背後に山迫る透明の海
とても透明度が高く、心地いい芥屋の海岸。大都会福岡に隣接したエリアにありながら、玄界灘に臨む地の利もあり「日本の快水浴場百選」に選ばれている。沖合から望む芥屋の海岸は、背後に立石山が迫り、澄んだ海と山の緑がありのままの自然の姿を感じさせる。月照の夜、その景色は神秘的な藍色の世界に変化する。
7 姫島 激動する幕末の歴史舞台に
糸島半島の西側に浮かぶ姫島。江戸時代末期の女流歌人であり勤王活動にも関わった野村望東尼(ぼうとうに)が、乙丑(いっちゅう)の獄により、遠島された歴史の舞台である。後に高杉晋作の命により、望東尼は救出された。この島で月を見上げる望東尼は、どのような思いに浸っていたであろうか。
8 夫婦岩
糸島を代表する景観の二見ヶ浦の夫婦岩。白い鳥居が結界となり、大注連縄の掛かる夫婦岩は、神域となっている。その上空に浮かび上がる満月。月光とともに、宇宙から神秘的な波が打ち寄せてきているかのようだ。眺めるうち、いつしか、お月様に手を合わせ、頭を下げていた。
※「月照の海」8種のコンプリートセットです