①暁星(ぎょうせい)
闇が最も深いとき、東の空にひとつの星が静かに輝きはじめる。
松林の向こうに浮かぶ姫島は、
闇と光、此岸と彼岸の境に佇むように現れ、
見る者の内奥へと、確かな方向感覚をそっと指し示す。
暁星は、目覚めに先立つ希望のしるしである。
②朝靄(あさもや)
朝靄は、世界の境界を消し去り、
姫島と心をひとつの呼吸に結ぶ。
松陰越しに立ち現れるのは、
まだ名を持たない内なる風景である。
③曙紅(しょこう)
朝霧が晴れ、
空はやわらかな紅をまといはじめる。
松林の奥に浮かぶ姫島は、
世界の一部として静かに息づいている。
曙の刻、
目覚めゆく心と風景が、
ひとつに溶け合う。
④晴嵐(せいらん)
松林を抜けて届く光は、海に揺らぎを与え、
姫島を、「現実の風景」として立ち上がらせる。
晴嵐。
世界が今日という一日を始める、その最初の呼吸である。
⑤風止(かぜやみ)
風はふと止み、
張り詰めた静けさに包まれる。
空と海は不自然なほど静まり返る。
松林の奥に浮かぶ姫島は、
静寂の気のなかで、
すでに変化を予感させる。
⑥雷光(らいこう)
厚く垂れこめた雲と雨の底で、
天は一瞬、引き裂かれる。
松林の奥、闇に沈む姫島へと走る雷光は、
世界がまだ生きていることを示す。
自然がみずからの力を思い出す瞬間である。
⑦清明(せいめい)
嵐が過ぎ去り、
世界は何事もなかったかのように澄み渡る。
松林の向こうに浮かぶ姫島は静かに佇む。
清明とは、
傷の記憶を抱えたまま、再び澄みはじめる瞬間。
⑧黄昏(たそがれ)
日が沈み、ゆっくりと静けさへ向かっていく。
松林の向こうに浮かぶ姫島は、
一日のすべてを受け止める存在として佇む。
ただ深く、成熟していく刻。
⑨星巡(ほしめぐり)
夜は深まり、
星々は北極星を中心に静かな円を描いて巡り続ける。
松林の向こうに浮かぶ姫島は、
動かぬものとして、
ただその巡りを受け止めている。
星巡とは、
世界が始まりも終わりも持たず、
ただ在り続けるという事実を、
静かに思い出させる。