①芥屋の大門・帰帆
灰色の霧に、山も海もその輪郭を溶かしていきます。画面の隅にほとんど気づかないほど小さな一艘の舟。見つけた瞬間、無人だった風景に、帰りゆく人の時間がそっと灯ります。
②芥屋の大門・落雁
幾千年を生きる岩の上を、渡り鳥の群れが一瞬で横切っていきます。動かない山と、飛び去る命。水面に映るその姿が、上と下、実と影という、もう一つの世界を重ねます。
③芥屋の大門・晴嵐
山にかかっていた靄がほどけ、澄んだ大気の中に岩肌がすっと姿を現します。輪郭にはまだやわらかな光の気配がまとわりつき、山が空気そのものから生まれ出てくるような一瞬です。
④芥屋の大門・夕照
すべての細部が黒い一つの塊へと沈み、燃えるような橙の空だけが背後に残ります。名所は消え、記号のような山影だけが残る――一日の終わり、そして夜への入口です。
⑤芥屋の大門・晩鐘
鐘の姿はどこにも描いていません。しかし淡い夕光に溶けていく山と海の輪郭が、鳴り終えた鐘の余韻のように、静かに空気の中へ広がっていきます。
⑥芥屋の大門・秋月
夜空にひときわ大きく浮かぶ月と、山腹に開いた黒い洞窟。光と闇がひとつの画面に向かい合い、天体としての月というより、心の奥に灯る月として現れます。
⑦芥屋の大門・夜雨
斜めに走る雨が、山も海も空も一つの気配へと溶かし込みます。それまで積み重ねてきた輪郭が洗い流され、唯一残る洞窟の黒だけが、静かにそこに在り続けます。
⑧芥屋の大門・暮雪
画面のほとんどが白に還っていきます。しかし何もないのではありません。芥屋の大門は消えたのではなく、白の中に還った――そこに、次の世界が始まる前の静かな沈黙があります。